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歌集 『象形文字--hieroglyph』
Morris.in Wordland 開設7周年記念 2005/11/05
窓] | 囲ひ込み自ら望む獨房の壁に穿うがちし慾望の穴 | |
風] | 大いなる鳳凰天に翔はゞたけば羽の形に流るゝ氣體 | |
雲] | 憧憬あこがれは天そらなる騎乗中つ世の輪廻轉生ぽつかりと浮く | |
行] | 十字路は出逢と別離陥穽おとしあな行くも行かぬも死ぬも生きるも | |
春] | 繭まゆ紡ぐ蠶かひこに捧ぐ桑の芽の匂ふ山邊に春來るらし | |
夏] | 舞へ踊れ夏は身體を浪費せよ勺熱の陽が指嗾そゝのかすから | |
秋] | うましねの瑞穂の國に生れしが心の秋を如何ばかりせむ | |
冬] | 厳しさは弱き心の皮鎧氷は水の已然形にして | |
力] | 力瘤否自己過信の力鼓舞強きは自らを滅ぼす道具 | |
酒] | 徳利は半島からの渡来物わたりもの寝かせるもよし滴るもよし | |
胃] | ありとある生き物なべて有袋類消化すべきは胃の外に在 | |
心] | 裏打ちの律動しかも亂拍子意の侭まゝにならぬ器官を悪にくむ | |
旅] | 兵五百軍旗の下に聚あつまれば動かざる能あたはず即ち是旅 | |
若] | 口開けば紅き舌根も焔ひと燃えて冒さざる無し若さてふもの | |
老] | 杖に依る腰の曲りも積年の喜怒哀楽の果ての煮凝にこゞり | |
電] | 語呂語呂と神鳴響け稲光れ電々太鼓ぴかぴかの笛 | |
虫] | 毒牙持つ蝮の裔すゑに選ばれし人類と言ふ虫けらの傲 | |
非] | 背き合ふ左右の羽根を一身に負ふ鳥にして大地つちからの逃避 | |
美] | 羊等は道を迷ひし何時の世も神の愛でしは大きさの順 | |
知] | 饒舌な神憑依してあけすけに語る言葉は悲しかるべし | |
言] | 言葉とは唇くちに刺青する行為人は鈍感に生きるものかも | |
血] | 皿の上に凝固した血は誰たが為に甲斐無き歌を歌ひ続くる | |
友] | 手には手を差し出し情を分ち合ふと見ゆる時にも友は他所人 | |
萬] | 蠍座の星を數へて夜もすがら浮草と言ふ不思議を思ふ | |
無] | 有りの實を無しと呼ぶのも氣の迷ひ無為無事無精日々の要諦 | |
東] | 東雲の明みに染る血の袋人として起たち物として消ゆ | |
西] | 酒漉の甑島こしきじまより漕ぎ出せば淨土は僅か數尺の距離 | |
南] | 天幕の暖炉の温み懐かしむ遊牧民に非ず哉我が祖も | |
北] | 背き合ひ冥くらきを目指し迷走す敗北の裡うちに潜む快樂 | |
赤] | 悉白里亞シベリアは紅蓮ぐれんの地獄誰よりも大き炎を冀ねがふ罪人 | |
青] | 萌え出る地下鉱脈に草色を醸す青丹以て點睛 | |
黄] | 抽象の獣畏れて射る火矢は黄金色の糸引き虚空そらへ | |
黒] | 竈かまどには竈の神の坐ましまして黒煙の煤豊饒の証 | |
白] | 親指の孤独他所には知らされず白爪草に隠されてあり | |
弟] | 愚行の輪無恥の階梯抜け目なく早い者勝いつの時代も | |
民] | 胸板に穴を穿うがちて集散の故郷喪失ハイマートロスト孑孑ぼうふらの生 | |
夢] | 夜は闇闇は優しさ手探りで見る夢枕朝来ずにあれ | |
牢] | 迷宮で少年少女喰らひてし半獣神ミノタウロスも囚はれの身 | |
獄] | 犬暮らし吠える言葉は是非もなく諍あらそひの種子とならざるは無し | |
死] | 肉と骨三枚下ろし蹲うづくまる死は日常の折々の澱 | |
弔] | 弔問に似合の客は蠎蛇うはばみと小人と傴僂悼いたみ分けつゝ | |
鬼] | 被り物頭の重さ恨みより迷ふ心の拠所よんどころ無さ | |
光] | 目を閉じて光を探す旅や佳し君の気配を指針と信ず | |
明] | 窓に倚り雫したゝる月の影浴びて透き通る程の朝を待ち居る | |
商] | 金を生む女陰の形象かたちその侭に商の果て阿片中毒 | |
我] | 武器持てば我と我が身を滅ぼさむ狂氣嚢衷に飼ひ置く如く | |
執] | 拘こだはりは心に鎖掛けられて刑場へ向かふ弱者の虚勢 | |
集] | 色鳥も獣も人も淋しさに耐えきれぬ時木の許に拠る | |
文] | 襟元を正し綾目を辯わきまふる楷書の人は畏敬し置くべし | |
昔] | 瞬間は瞬時に昔に成り行かむ日の重なりは分厚き粘土 | |
歌集『象形文字』はサンボ通信26号(1994/01/01)と31号(1995/1-/01)に2回に分けて掲載しました。 タイトルのとおり、象形文字である漢字をネタに文字遊戯めいた歌に仕上げたものです。 サンボ通信誌上でもすべての象形文字をカットに使いました。 このネット.部屋にアップするのが後回しになったのも、この文字の画像をスキャンするのが面倒だったからにほかなりません。 今回、Morris.部屋開設7周年を記念して観念して一日がかりでページ作成しました。とりあえず、造形的にも優れた象形文字を見るだけでも、楽しめると思います。余裕があれば、お手持ちの漢字辞典で成り立ちなどチェックしてください。白川静の「字統」などあれば更に良いです。 Morris.歌集も、この『象形文字』で、すべてを公開し尽くしました。「歌を忘れた歌人」Morris.の過去の歌集もこれで打ち止めということになります。 偶然ですが、発表作は合計千首ということになりました。切りがいいといえましょう(^o^) 実はこの歌集の中の数首が、平成7年度国語の入試問題に出題されました。トンデモない話ですが、本当です。詳しくはサンボ通信29号の該当記事をごらんくださいm(__)m |
2005/11/05 |
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