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歌 集 猫 嫌 ひ catphobia
 
ぬばたまの墨染衣天鵝絨ビロードに匿す凶器は血に濡れて闇 
BLACK CAT 

肝腎の懸案故に先送りさうと知りつゝさうなる理屈 
BELL THE CAT 

九回も百万回も同じこと叩いても死なぬ者から出立 
CAT HAS NINE LIVES 

ひと筋の糸の縺れか戯れか場面転換綾取りの生 
CAT'S CRADLE 

猫に犬車軸も流す雨ならば方舟はこぶね山に造るも道理 
RAIN CATS AND DOGS 

須臾し ゆゆの間に夢は現うつつと入替る狸寝入りも剣呑な術 
CATS SLEEP,CAT NAP 

夜光る寶石空に散りばめて猫座創らむ夏の夜の夢 
CAT'S EYE 

跳猫と撥ねる魚さ かなと蚊柱と鳶と日和見主義者を讃ほめ 
CULT OF THE JUMPING CAT 

好色な猫の笑は無視せよALICE樹下には必ず陥穽おとしあなあり 
CHESHIRE CAT 

断食は藝か抗議か抛擲は うてきか獄吏を鵜飼に擬する法律 
CAT AND MOUSE ACT 

瓢箪で鯰を掴む公案に逆捩ぢ喰はす猫属の爪 
CAT FISH 

千鳥足抜き足差し足勇み足足場ばかりを歩く生涯 
CAT'S WALK 

薄氷踏む思ひ忘れて度々の修羅場の巡りそれも性格 
CAT ICE 

猫の銀雲母は優しきららかに捲めくる頁の目眩めくるめく 空白しろ 
CAT SILVER 

極端を嫌ふ貴族の若殿の舌に苔産こけむす春は曙 
猫舌 

戀猫は猫にはあらで一塊の天上天下唯我獨尊 
猫の戀 

時經れば人喰猫に成上る雙六すごろく遊びさせられし記憶 
猫又 

猫は馬鹿馬鹿は坊主の尻取に異義申立も即刻却下 
猫馬鹿坊主 

猫じやらし猫可愛がり猫好きの主人の前では猫被りの猫 
猫被り 

牙を剥く影絵の恐怖故郷ふ るさとの化け猫話巧かりし叔父 
鍋島猫騒動 

青猫の詩人偲べば雪となる都會の涯の冬の夕暮れ 
青猫 

狂ふまで踊り續けて灰になる火葬場いらずの舞を危ぶむ 
猫ぢゃ猫ぢゃ 

海猫は海に死ぬるが掟故日がな一日泣きて暮らすと 
海猫 
  
招かれて罠に陥は まるも一興と思はす程の美猫見まほし 
招き猫 
  
永遠の少女哀しき感嘆詞!さらばさらばさらばちび猫 
綿の国星 
 
 

サンボ通信32号(1996/01/01)つまり、6年前の新年号に 所載したものです。。Morris.は決して猫が嫌いなわけではありませんが、このタイトルはMorris.の天邪 鬼気質の表われなのでしょう。 

例によってcatとか猫とかの文字を含む語をネタに三十一文字に捏 ね上げたものです。 

ポーの「黒猫」、イソップ寓話、ことわざ、季語、アリス、萩原朔太 郎、徒然草から、大島弓子の「綿の国星」までヴァラエティに富んでるといえば聞こえがいいのですが、辞書や、本 棚をかき回してネタ探しに苦労したことがしのばれます。 

猫馬鹿坊主というのは、集英社の「暮らしの中のことわざ辞典」折井 英治編によると 

主賓の席の隣に座る者は、猫か馬鹿か坊主だけだということで、席に 着くときには自分の地位や身分を考えて、あまり上座に座るものではないという戒め 

と、あります。

 
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