巽聖歌というのはペンネームなのだろうが、それにしても風変わりな名前なので、小学生の時から記憶している。
児童詩や童謠を多く書いてることは知っていたが、”さざんか”と聞くと反射的にメロディが口をついて出てくる「たきび」の歌詞がこの人の作だとは長いこと気付かずにいた。 この童謠は昭和16年12月9日から3日間、NHKの子供向け番組で繰り返し流されるはずだったのが、8日に太平洋戦争勃発のため2回しか放送されなかったとか。 さざんかが歌詞に出てくるのは、2番なのだが、僕の中では「たきび・かきね・さざんか」は三位一体で、切り離すことが出来ない。 さざんかの名は漢字表記「山茶花」の訓「さんちゃか・さんさか」が語呂のよさから転倒したものという。 その元の「山茶花」は中国では「つばき」のことで、さざんかは「茶梅」と書く。 おまけに「椿」という字はあちらではつばきではなく「ちゃんちん(栴檀科の落葉高木)」を表わすというのだから、ややこしいことこの上ない。 しかし今更そんなこと穿鑿してもしかたがない。 さざんかもつばきも、同じ仲間で、花も葉もよく似ているが、つばきの花は根元からぼろりと落ちるので、縁起が悪いと避けられることがある。 その点さざんかははらはらと穏やかな散華ぶりで、ほっとさせられる。 さざんかの花の色は、紅、白、絞り、薄紅などがあって、生け垣にはよく紅白が植え分けられてあるのを見かける。 中学以来の友人馬場茂君の実家(武雄市橘町鳴瀬)の庭に、丈は低いながら良く手入れされた真紅のさざんかの独立樹があり、その咲きっぷりも見事だったが、落花時に樹下一面が、緋毛氈を敷き詰めたようになるのを見るのが冬ごとの楽しみだった。 その景色とも縁遠くなって、30年を超える。 先般の賀状に近くの小学校の教頭に就任した由認められていた。 学名camelia sasanquaには、和名の響きがそのまま採られている。 しかも「ささんくゎ」と、旧仮名遣いの訓を正確にうつしているところなどは表彰ものではないか。 sとkの無声音の連続が美しい。 そういえば、先の「たきび」の歌詞は一番がkとt、二番がsとtという無声音を多用して冬の寒さを強調しているとみるのは、深読みにすぎるだろうか。 伊丹の俳人上島鬼貫はその著「ひとりごと」の中で 「秋の雨は、底より淋し。冬の雨は、するどに淋し。」 と記しているが、Morris.は鬼貫の向こうを張って 「夏の雨は「ざんざか」と降る。冬の雨は「ささんくゎ」と降る」 と、決めつけておきたい。 |