競い合うように階段を上り
後ろ手に扉を閉める
君のアパートの窓からは
一面に海が見わたせた
大きなコンテナ船が
ゆっくりと港を出て行く
ほんの少しの希望と
積み切れないほどの退屈を乗せて
しりごみするように船は進む
水平線がぼんやりと描くのは
空の終わりでも始まりでもない
その先にある曖昧な未来だ
約束された未来ではなく
僕らの密着した
皮膚と皮膚の間にある未来だ
すべてを飲み込んで
そこに太陽が沈む
赤いペンキをたっぷりと
白いハケに染み込ませて
眠っている灰色の街を
全速力で駆け抜けろ
ぶつかってもいい
転んでもいい
どんな線が生まれ
どんな絵を描くだろう
そいつを空から眺めてる
君は笑っていればいい
僕は駆け抜ける
全速力で
月がのぼって
照らし出すのは
遠い子供の頃の記憶
ブランコを搖らしながら
大人になる日を待ち続けた
夕焼けを追い掛けた
雲が染まって
とてもきれいだった
戻らない時は
無くした貝殻みたいに
どこかで僕を
待っているだろうか
思いっきりやりなさい
思ったとおりやればいい
だって人生は一度だけ
君だけに一度だけ
続けて行くことも
諦めてしまうこともある
それは君が決めたこと
誰かのためにやることはない
誰かのために泣けたって
誰かの代わりに生きれない
世界はみんなに一度だけ
君だけに一度だけ
迷わない
比べない
恐れない
焦らない
遅くない
早すぎない
闇雲だって構わない
人生は一度だけ
君にだけ
一度だけ
とめどもなく落ちて行く
切り取られた世界の果てで
『真実はどこにあるのか』と自問した
答は僕の中にではなく
外にあるのではないかと思い
吸い込まれる水平線の
斜め上に向って叫んだ
答えが返って来るかわりに
傷付いた一羽の鳥が飛んで来た
水平線と交わりながら
同じように見えるが
一度としておなじではない軌跡を描く
夕暮れの茜色に染まった海の上でも
翼を眩しいほど白く輝やかせて
僕はもう一度
答えを求めて叫んだ
その時
凍りついたように鳥は
斜めから水の中に落ちた
いや突き刺さった
鳥は魚になっただろうか
君がいたのは夏の日の午後でした
駅前の自動販売機の前で待ち合わせをしました
二人とも同じように十分ずつ遅れて来ました
君がいたのは夏の日の午後でした
駅前の商店街を抜けて公園まで行きました
目が眩むほど強い光が照りつけていました
君がいたのは夏の日の午後でした
白いスニーカーと同じ色の防止が眩しく光っていました
長い列に並んでアイスクリームを買った店は取り壊されました
君がいたのは夏の日の午後でした
時が来たら海を越えて遠くへ行こうと約束しました
君は映画のパンフレットをうちわがわりにしていました
君がいたのは夏の日の午後でした
君がいなくなったのも夏の日の午後でした
駅前のいつもの場所で待ち合わせをしました
目が眩むほど強い光が照りつけていました
僕のそばにやって来たのは一ぴきの猫だけでした
君がいなくなったのは夏の日の午後でした
夏の朝 蝉の声
雲ひとつない空
眠りにつく月は
透き通っている
君の夢は
どのあたり?
地中海の深く碧い色のコップで君は
おしげもなくコーヒーを飲みほした
黒いおりの溜まった最後の一口を
僕らの間にはもう
コップを持ち上げる
以外に
時間を止めておく方法はないというのに
僕のコップは冷え切った黒い液体で滿たされたままなのに
そして君は引力を味方につけて
軽々と立ち上がる
曇りのない君の笑顔を
僕は初めて見た