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歌 集
嗜好朔語

サンボ通信37号可愛さの余りてなどか蒟蒻は我が終生の伴侶となるかも

・Morris.の蒟蒻好きは一部では有名だ。特におでん鍋に数日寝かされて、だしが染み込んで半分くらいに縮んだあつあつの奴をふうふう言いながらほおばる瞬間ときたら---
 

吾が採りて母が料りし田螺煮に生姜の香り立つが悲しき
・田螺は、買うものではなかった。近所の堤に行けば子供でも簡単に取ることが出来た。貝の中では今も田螺が一番好きなのだが、なかなか食べる機会に恵まれない。
 

池掃除終わりて真一匹を裏井戸の水で洗ひかつ食ふ
・生家は温泉旅館だった(今はもうない)ので、奥座敷に面して小さな池があって、毎年夏の池掃除は子供にも楽しみの一つだった。
 

棘も味肥前鍋島ヤンヨー食べ散かされ新聞紙上
・佐賀県庁前の堀には菱が群棲していた。葉も実も菱形で(語源的にも植物の方が本家だろう)佐賀の名物となっていたが、実は鋭い棘に守られていて、なかなか食べるに難儀した。ヤンヨーというのは、菱売りの掛け声で、同名の菓子もあった。

発明は蓮根孔の詰め辛子侮り難き肥後の茶坊主
・熊本名物芥子蓮根は、酒の肴にぴったりなのだが、数年前の食中毒事件で一挙に人気を落としてしまった。残念である。
 

削り炙れば匂ひ立つ長崎土産鯔ボラのはらゝご
・カラスミは形が唐の墨に似てることからの命名という。鰡の卵の塩漬けして乾燥したものだから結構栄養価は高いと思う。栄養価以上に価格が高いので、もう長いことごぶさたしている。
 

おから買ふ積もりもなくて豆腐屋の豆の匂を掠めて帰る
・おからも上手に料理したら美味しい惣菜の一つだが、一頃のようにバケツに入れて只同然の値段で売ってるところは見かけなくなった。卯の花という美名、きらずというさりげない良い名もある。
 

根菜のルーツ笹掻き大胆に金平牛蒡命歯応へ
・金平牛蒡はモリス亭の定番付出だった。鷹の爪を効かして胡麻を多めに入れ、鶏と人參で味に丸みを加えて---と、ついついレシピになってしまう。
 

往にし方の奈良下々味亭零餘子飯むかごめし三杯目にはそつと出すべし
・奈良興福寺北側にある下々味亭は、日替わりの炊き込みご飯や惣菜を出すこじんまりとした小さな店で、毎日でも通いたい店だったが、客が溢れて入れないことが多かった。とにかくご飯が美味しく中でも零奈子ご飯は、忘れられない。

櫻肉身の潔さ浮世の憂さを蹴飛ばせばこそ
・馬刺しは冷凍しか食べたことがないのだが、あのひんやりした舌触りと生姜醤油の取り合わせは絶妙なものがある。
 

薬膳と言ふには餘る參鶏湯サムゲタン栗を食みつゝ人參の酒
・辛くない韓国料理として人気の高いサムゲタンは、典型的な薬膳なのだが、「良薬口に美味し」としかいいようがない。
 

三八線越えて平壤ピヨンヤン咸興ハンフン冷麺づくし厳冬の旅
・朝鮮料理の冷麺は、平壌風のムルレンミョンと、咸興風のピビンネンミョンに大別される。どちらも北朝鮮が本場で、冬季、オンドルで思いきり部屋を暖かくしてこれを味わったという。
 

食前の儀式両手に匙と箸撹拌すればするほどピビンパブ
・ピビンと言うのはかき混ぜる、パブはご飯だから、名前の通りご飯に具を入れて掻き回せばそれでもうなんでもピビンパブなのだ。
 

新世界じやんじやん横丁昼下がりドテ焼美味き店に君待つ
・フェスティバルゲイトが出来て、じゃんじゃん横丁界隈が樣変わりしてるようだが、ここの店のドテ焼きの味付けだけは変わらないことを祈りたい。
 

焼肉やロースバラレバセンマイにミノ一つだに無きが口惜しき
・焼肉の中で一品と言われたら迷わずミノと答える。牛は4つの胃を持っているが、その一番目がミノなのだ。他の胃(ハチノス、センマイ、赤センマイ)もそれぞれ美味いが、Morris.にとってはミノは特別な存在である。
 

流氷の海に産する紅玉ルビイ粒舌で潰せば血走るイクラ
・寿司屋では軍艦卷きのイクラに人気が集るが、Morris.は単品の醤油漬けが好きだ。一度正月に知人から、大量に貰ったことがあるが、半分も食べきれなかった。こういうものはちょこっとだけあるのがいい。
 

苦学生(笑)小倉北方交差点屋の鉄板熱く懐かし
・小倉競馬場をキャンパス代りにしてた学校に通ってた5年間と言うもの、その角にあった「鯖屋」にはどれだけお世話になっただろう。老夫婦でやってる、鯖の鉄板焼きだけの飯屋だったが、あそこ以上にうまい鯖はいまだに出会えない。しかも、当時としても驚くほど安かった。

煮凝にこごりの被膜に唇触るる時深海魚たりし記憶鮮明
・煮凝なんて子供の頃は見るのも嫌だったのに。いつのまにか好物の部類に変化していた。初めから作るのでなく冬日に煮魚して、一夜おいたらできていたという風情のものがなおいい。
 

もぞもぞと無数の脚を蠢かす蝦蛄しやこ安らかに茹でられてあり
・子供のころから蝦蛄の煮付けの味は好きだったが、身を取るのが苦手だった。尾っぽの先の棘のついたグローブみたいな部分を指にさして遊んでは叱られていた。
 

横歩き無腸の惠み一盞の蟹味噌あらば斗酒尚不辭じせず
・断言してしまおう。Morris.は蟹肉より、蟹味噌が好きだ。敦賀に春待ちファミリーBANDで行った時、蟹尽くし料理が出たが、蟹雑炊の中に恐ろしいほどの蟹味噌を入れるのを見て気絶しそうになった。あれは、やっぱり直接舐めるようにして、いただきたい。

銀杏を探す楽しみ茶碗蒸ふわふわふわの和風プディング
・「茶碗虫」だと長いこと思っていた。今でも茶碗蒸が出ると、まず銀杏を探す癖がある。
 

麺太く紅き蒲鉾肉野菜貝チャンポンにして四海浪立つ
・やっぱりチャンポンは長崎で食べるに限る。関西ではいまだにうまいチャンポンに当ったことがない。長崎なら別に四海楼(この店が発祥という)でなくても美味しい店はいくらでもある。
 

麻姑の手も借りて自慢の中華鍋麻婆豆腐に泡立つ義憤
・あまり自慢するのもなんだけど、Morris.の十八番料理と言えば、これ、麻婆豆腐。秘訣は胡瓜入れることかな?
 

空し世の瀧の白絲春雨に濡れて破瓜待つ緑豆の莢
・春雨は緑豆の澱粉から作るもので、中国でも韓国でもよく使われる。タイ料理にも春雨みたいなのがあるが、韓国料理のチャプチェを良く食べる。
 

來世には為りたきものの一つ故海鼠なまこ噛む時恍惚となる

來世には為りたきものの一つ故海月くらげ噛む時朦朧となる
・海鼠と海月といえば、次の句を思い出さずにはいられない。実にMorris.の好みである。(句も海鼠も海月も)

憂きことを海月に語る海鼠かな 黒柳招波



サンボ通信第37号(1997/04/10発行)所収。
Morris.は決してグルメではないのだが、偏執的に好きな食べ物がいくらかあって、友人から呆れられたり、馬鹿にされたりすることもある。それらの嗜好を主題にものした26首で、Morris.の歌にしては、分かりやすい、面白いと言う声をいただいた。
最近は、もっぱら料理する方に力点が移ったMorris.だが、こうやって見直すとMorris.の好きな食べ物の傾向は、一目瞭然かもしれない。
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