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歌集消 息
来ぬ文を待つ仄暗ほのくらき夕間暮白夜の城のミモザ枯れつつ 赤子等の赤心試す赤紙に一銭五厘の生命いのちの軽み 青くして気負ひばかりの二人故決闘に似し文通も有りき 街角に赤き怪物立ち竦み人の情念貪むさぼりてゐしが 空つぽの郵便受に充満の期待の密度咀嚼する日々 天翔あまがくる便りに夢を織り混ぜて異邦の香かをり懐かしみゐる 郵袋の虚実愛憎撹拌し郵便局の深夜のゲーム 日付印蹂躙すれどギザギザの領土死守する小国家群 問ひ掛けは無言の裡うちに切々と往還双葉羽根の如くも 君にのみ便りを運ぶ挺身の配達員に嫉妬を覚ゆ 究極の烏滸をこ滑稽は真剣な情熱滾たぎる戀文にこそ
かにかくに慕ふ心の過剰故白紙の便りを象徴として 結び文付け文投げ文落とし文戀の以呂波の文揃い踏 絵葉書の絵は絵に非あらず異次元の被膜腐触の果ての傷跡 身勝手も男の見栄も未練にて三行半みくだりはんに曳く後髪 故郷への便りを雁の脚に託す詩人の故事は他所よそ事で無し
真夜中の「電報です!!」の衝撃も今は孵かへらぬ恐竜の卵 水茎や玉章たまづさの美は別世界ワープロ文字の手紙恐惶 本文は全て前書き用件は追伸を見て推し量る書簡ふみ 早合点一発刑事よ死の用心賭銭流すな罪増やせ 風に聴く君の消息たよりを今一度ジェット気流に載せて解放 そのかみの候文を懐しみ真似候ひしが恥書て候 頼りなき身にも便りは嬉しけれ叱咤罵倒の羅列としても 生前に文を書き置く傲慢さ死者に鞭搏つ人少なきを 美稲うましねの秋の夜長は酒を酌み自分自身に手紙でも書かう サンボ通信27号(1994/10/01)所収。信じようと信じまいと、Morris.は一時、筆まめな時期がありました。稀代の悪筆なので、学生時代の手紙なんて、もらった方が判読できたかどうか疑問です。それだけに日本語ワープロを手にした時は大喜びで、16ドットのギザギザ文字の手紙を出しまくったものです。 あれから10数年が過ぎて、時代はe-mail全盛となってしまいました。そして、Morris.は、すっかりメール無精に成り果てています。
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