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天空の不動明王極みの座それも瞬息予定不調和
北極星POLARIS きつ過ぎる狼の眼色を変ゆ艱難辛苦煮え滾たぎる予言
星老いて餘星を如何に過ごすとや南の地平に鈍にび色の巨漢
周年の逢瀬を妬み七夕の雨乞切に祈る鵲かさゝぎ
五車に余る典籍運ぶ御者連の鞭音合図に唄ふア・カペラ
乙女等の髪まだ青き麦の穂の一途な形状かたち真似ぶに非あらずや
蠍さそりこそ赤心溢るアンタレス己が毒針心臓に刺す
紫の煙に隠る四三星しさうぼし柄杓で掬すくふ灰限り無し
冬の夜の奢おごり天体球戯場スロットマシンに並ぶ三星
七姉妹すぼまる空の片隅に行方知れずの妹一人
魂たまきはるVの一翼オレンヂにアルデバランは泡うたかたの宴うたげ
さなきだにWはMの裏返し女王の椅子の煌きらめく悲鳴
渦巻の出自は旧ふるし越日於比亜ヱチオピア美貌は誹謗の格好の贄にへ
日輪は星々輩ばらを隠す傘海にゆるゆる沈む時まで
み姿を何に例へむ銀の盆玉の鏡に勝る月影
傍目はためには惑ひ狂ふと見ゆるとも畢竟遊星歯車装置プラネタリウム・ギアの一輪
真紅まつかな罪故に雛星ひなぼし罰の星運河を巡る囚人の舟
水の国名と裏腹の焦熱地獄ねつぢごく水星無視の報いは間近
茫洋たる瓦斯ガスに漂ふ紅くれなゐの隻眼かためも哀し放蕩息子prodigal
son
ひとつ星彼かは誰たれの星明けの星ヴィ−ナスには不釣合の菫
象徴の輪リングは鋭き旋回刃不断に切断されてゐるサテユリコン
辺境の三国の王各自おのがよゝ寡黙に見ゆる裏の焦燥
箒星はうきぼし忘れし頃の定期便楕円軌道は放逸ノンシヤランな道中たび
星屑の自殺行為の閃ひらめきを婚礼に喩ふ洒脱さを嘉よみす
選ばれて生きるに非あらずこの星の仮の宿りの春の夕映ゆふばえ
初出はサンボ通信第25号(1994/04/01)。Morris.は天文学には疎い。星の神話とか、伝説の本を読むのは大好きなのだが。あまり視力が良くないのに加えて最近の都会の空はどんどん星が見えにくくなってるし、実際に名前と位置を特定できる星や星座は数えるほどしかない。畢竟この歌集も、たぶんにbookishな作物になっている。その分、東西の星の異名や、伝説、伝承、神話などのエピソードを読み込んでいるので、例によって、言葉遊びの謎解きとネタ暴きを樂しみながら、読んでもらえれば、作者冥利に尽きます。
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