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歌集無流
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風に染しむ汚濁恥辱を承ひきうけて闇夜韜晦たうくわいの海で綿摘み
月戀つきこひの心の振り子揺り揺られ朝は潮あさしほ夕べは汐うしほ
回転は速きが故に貴からず緩慢かんまんな螺旋運動は太古からの憧憬
深淵は水で製つくりし蟻地獄ありぢごく選民のみを飲み込みて黙す
碧緑へきりよくは湖水の鬱うさの深度計沈めよさらば鎮まらむ
川は歌手川は踊子さらさらと流るゝ心算つもりが柵しがらみの贄にへ
此國このくにに江かう程の流れ絶えて無く支那人見間違ふ瀬戸内の海
白子めく鯉の稚魚はららご無数に孵化かへり腰まで水に浸かりし記憶
沼に棲すむ生き物ばらの幸せを吾われは今日まで解らずに居り
空想の城を経巡へめぐる石と水天守閣とは死に場所の謂いひ
三角洲δデルタ地帯は如何いかがはし浮世の垢の吹き溜りの唄
水辺の草叢くさむらに蛇走り去り胸さはさはと騒ぎて止まず
許すまじ相生あふも叶かなわぬ和歌の浦待つ程に夜を明かし恨み
波よ立て風吹き荒れよ優しさは玄海灘には似合はなければ
水際みづぎはは何時もの腕の見せ処どころ後には退けぬ綱引きもあり
鹵しほの路にがり苦渋も難波潟なにはがた形見の扇あふぎ風の間に間に
金色の渚に刻しるす足跡の一つは海へ一つは天そらへ
休み無く想ひの歌が懇々こんこんと湧き出る泉の才を慾すも
瀧つ瀬を垂水布引白糸と言ふも縮訳つまりは川の階段きざはし
井蛙せいあ嗤わらふ者皆同じ井の蛙死ぬも生きるも戀ふも悪にくむも
波動粒子説ものかは海の皮膚の痙攣は規則正しい聖三拍子St.tritime
泡沫うたかたの戀の行方は久方ひさかたの幻燈の画ゑにかたかたと燃ゆ
雨去りて名残の庭に佇たたづめば凹くぼみ凹みにミニチュアの海
蛤はまぐりの吐く珠またま虚空に城を建つ海市の民にしばし魂寄せ
始まりは雫しづく一滴草の露はかなきものの強したたかなこと
サンボ通信第17号(1991/04/01)所収。水のさまざまな姿態をテーマにしたもので、「無流」というタイトルは反語めいてますが「むる」と読むと、韓国語で水を意味する単語になります。 後記雑録にこんな愚痴が書いてありました。 「いつもに増して今回は原稿の集まりが悪い。一番早かった堀さんが22日。あと吉美ちゃん、続いて福田の25日で、これを打っている28日現在、井山、秋本、としろう、古田先生の原稿が未着というのは悲惨としか言いようがない。しかし何よりも、まだ巻頭歌集が一首も出来ていない情況なのだ!!」 4月2日には韓国旅行に出かけるとあるので、かなりの修羅場の中で作られたことは間違いありません。読み返してみると、生硬な言葉が目につくし、破調も多く、かなりの難産だったことが察せられます。イラストに用いた京唐紙の和風の波模様だけは今でも気に入ってます。
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