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愛慾を掻き混ぜるため棒状の肉桂甘辛く薫る女王紅茶Queen
Mary
Cinnamon 万紅てふ朔果りんごに丁字突き刺して腐亂せし後の部屋の華やぎ
火を母に血を父に持つ唐辛子食卓の上皆灼やき尽くせ
晴がましき時は束つかの間桂冠の葉は陰干しに人は墓場に
辛子色の襯衣シヤツ愛めでし心はあの秋の過失忘れぬ戒めの為
万が一汝に少年の日ありとせば薄荷パイプのセルロイドにこそ
緋衣纏まとふ僑胞のみに判るべく一葉毎の合言葉パスワードは救済サルビア
王侯の迷いを払う目箒めばうきのゆかりの薫り蝿も寄せ付けず
胡麻油胡麻塩胡麻味噌胡麻醤油呪文ではもう胡麻かせぬ頭髪かみ
生ける造花誘ふ乳香芬々と危険なる存在もの何故に戀しき
木の芽狩り棘も異臭もものかはと山椒好きな揚羽蝶の子
茴香姫キヤラウエーと命名されしカレ−猫犬よりも蛇よりも水を怖る
アネト−ル甘い香りも悪魔除け西の茴香ういきやう東の八角
パセリ葉を人参の葉と信じてし我が幼時期の緑の記憶
老いるほど頑固偏屈度を増して吾は段々山葵わさびに似るらし
ガ−ワ−の響きと共に飲み下す薬のやうな詩人の珈琲
黄砂降る季節は終日窓を閉じ印度鬱金うこんの岸辺を想ふ
ガ−デニア梔子くちなしの実はおちょぼ口いつも嬉しい嘘付きの口
君故の辛苦地獄の公平さ掠奪者にも被掠奪者にも
耐えられぬ臭ひ芳香に変はる頃息絶え絶えに吸血鬼帰還
蜜蜂の友にして料理長のお気に入りchef's
pet勇気の源泉木立百合香
こえんどろ南京虫の香の媚藥使用量にはくれぐれも御注意
乾燥屍體ミイラから滲み出す微醺びくん夭折えうせつの魔女が愛せしラム酒の如く
過ぎた物鶏に牛刀鉄の爪蝸牛エスカルゴに用いる小龍エストラゴン
八方美人便利屋稼業も報酬むくい些々さゝ何方どつち付かずの百味胡椒オールスパイス
サンボ通信第15号(1990/09/18)所収。香辛料とハーブを主題にしたものでタイトルのギャグは、ちょっと無理があるかもしれません(^_^;) 実際にスパイスやハーブをたくさん使う方ではありません。だから、名前の面白さや、故事来歴などにもたれかかった歌が多く、上出来とは言い難い歌集でした。
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