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・敏馬
水の神敏馬
みぬめ 見る目も麗しく水泡みなに揺るる海松布 みるめを献ぐ

・将軍通

唐渡り悪業尽くす将軍の怒り鎮
しづめむ封印の街

・処女塚、求女塚
思ひどち西と東の戀仇処女倦怠
つかれし天秤 はかり の重さ

・石屋川
御影射す花冠の墓石の粉塵
こなも流れて天上河原

・灘
酒処灘の白壁石畳千鳥歩きの午後のたゆたひ

・王子公園
鳥獣蛇蜥蜴
とかげ等の拉致されて浄土に近き幻想の苑

・摩耶山
新しき廃墟摩耶山天上寺伽藍の跡に風清々
すがすが

・布引
古今調女瀧
めだき男瀧 をだきの歌枕雅びの極み六甲の水

・北野坂
今一度君に抱かれに北野坂砕けし心綴ぢ合すため

・トアロード
足穂愛
で三鬼遊びしトアロード月の欠かけらを拾ふ坂道

・生田東門筋
宵闇は優しきものぞネオン照
す愛憎生田東門筋

・花隈
石垣はふた昔前と變らねど君帰り來ぬ花隈公園

・再度山
峠には戯れ好きの魔物潜
み邂逅別離差配企む

・菊水町
母生
れし菊水町を彷徨さまよへど山蒼々と我を拒絶す

・新開地
祖母焦がる聚楽館も逸
いち早く砂上の霧と成り果ててしも

・メリケン波止場
大正のマドロス崩れ夢語り祖父懐かしき埠頭に立てば

・湊川
あゝ忠臣大楠公の墓よりも市場に詣で屍肉を購
はむ

・福原
柳垂る遠き都を忘れかね今年の春も燕滑空

・夢野
崖っ淵芭蕉ならずも夢の野を鹿兎らと駆け廻りたく

・鵯越
馬と鹿分別付ぬ無鉄砲判官贔屓鵯
ひよどりの聲 こゑ

・離宮道
海を背に月見る人を松並木離宮に續く勾配や愛


・須磨浦
須磨垂水塩屋舞子に朝霧のかゝる浜邊を掌中に隠匿
かく

・唐櫃
巌の室空蝉葬
ほふる唐櫃臺 からとだい六甲連山震撼ふる はす悼み

・有馬
有馬道温泉寺のおほどかさ濁り湯浴びし佛像の群

・海岸通
水光る海岸通り往来のセーラー服の紺の眩
まぶしさ
サンボ通信30号(1995/07/15)所収。この年の1月17日、神戸大地震が起こり、Morris.の住んでいた木造モルタル二階建てのアパートも右写真の通りの仕儀となりました。

友人宅や空き室を避難所として、やっと7月にワンルームに引っ越したばかりの頃の作で、歌には地震災害色を、極力排除したつもりでしたが、今読み返すと、結構当時の鬱屈した気配が漂っているようです。.

タイトルの通り、神戸の地名を主題にした歌集ですが、音が「致命傷」に通じるということで、いらぬ憶測を呼んだり、悪趣味だといわれたりもしましたが、例によってMorris.流の反語であり、洒落でもありました。

あの日から7年が経ちました。神戸の街は外見的には復興したように見えますが、細部を見るとまだまだ地震の爪あとは深く残っています。

地震の被害者であることを、特権化するつもりはありませんが、得がたい体験であったことは事実です。無くしたものは少なくありませんが、得たものもまた多かったと思います.

(2002年1月17日記)


神戸市灘区六甲町3-3-11
10年目の罹災日記
 
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