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甘く酸すき苺いちごの夢に狂死せし母は吾より幼くてあり
苺 夢の庭に恒常つねづね茱萸ぐみの一樹あり摘めども摘めども尽きせぬ恵み
色魂いろだまの割れて我等を誘惑す謐しづかに悶もだゆ樹上の花火
鬱々うつうつと蒼き林檎に唇くち寄せて神話逸話の多きを嫉む
三千歳みちとせの命の種子たねを頌ことほぎて支那の少女と添ひ遂ぐる覚悟
楊梅やまももの實は常夏とこなつを壟斷ろうだんす真紅の粒も日輪の澱おり
白玉の茘枝れいしの咽喉のどを滑る瞬間とき窒息と言ふ悦樂を戀ふ
睾丸に似る無花果いちぢくを頬張ほほばれば夏は遮二無ニしやにむに汝を愛す
濡れて重き黄金丸の律儀りちぎさは口腔にまで産毛の生あれて
はぐはぐと通草あけびのやうに軟かく實とも種とも辨わからぬ宇宙
酔どれのマドロス崩れ猫嫌ひ復また度々たびたびの旅を続けよ
垣高き夏季の牡蛎掻き火器を欠き貴下帰化近き花器に柿描き
葡萄状胎児の話定番の保健体育の教師もありき
梨食はめば望郷の念湧くと言ふ友の惑星ほしには還かえる船無し
隠れんぼサンボ黒んぼ櫻桃さくらんぼ逸はぐれ蜻蛉とんぼに聾つんぼのダンボ
蚊燻柑かぼす薫る豊後ぶんごの國の喇叭らつぱ吹き長野と麦の酒を呑まほし
胡桃割くるみわり人形実は拷問具萬歳の形状なりに約束の地へ
熱情と受難と刻ときの桎梏しつこくに軋きしみつつ回る果物時計
熱帯の戀冷蔵庫の孤独な死アボカド色の帷子かたびら纏まとひて
メロン賣の聲街角に谺こだまして子無き寡婦かふそを購かはむと疾はしる
眛爽よあけ前眼底まなそこに著しるき刻印松毬林檎パインアップル断面の浮輪
雉子きじならぬキウィ鳥を従へて彼岸を目指す鬼桃太郎
魚ボート麺麭パンのプディング叩売り発展途上に似合のバナナ
和蘭陀人Duchman寄席技藝人vaudevillian風 構成composition美 魔術師magician気取りのモンドリアンmon-drian
桃色の漿しやう触るゝ度たび黒人の舌思ひ出す渇かつえし如く
サンボ通信18号(1991/07/21発行)所収。タイトルは「果樹園」のもじりです。当時朝鮮語講座の授業で、「果樹園の道」という韓国の童謡を教えてもらい、愛唱していました。
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