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歌集
サンボ通信12号(1989/02/05)と14号(1990/03/15)の二回に分けて発表。タイトルからわかるように、いろは四十八文字で始まる48首ですが、ちょっとだけ趣向を凝らして、末尾も次の音で終わらせている、つまりこれは尻取り歌です。いちおうMorris.の歌は「舊假名遣ひ」なので、現代仮名遣いで考えるとおかしく感じるかもしれませんが、その辺はご了承ください。「の」の歌の末尾「私の太陽」の部分は、どうか「オ・ソレ・ミャオ」(猫だからね)と読んでください。

サンボ通信第12号サンボ通信第14号
い] 生き急ぐ薔薇色の頬若者の心の海圖カルテ 集積囘路
ろ] 六道の枯葉病葉わくらば 朽葉色それが浮世と輕き言の葉
は] 花ぞ昔過ぎ去りしもの皆美しく感情旅行西に東に
に]賑はひも焦燥からの避難壕生と死振り分けの橋頭堡
ほ] 發句虚し風雅は無用生きるには馬鹿に成り切れ急げ故郷へ
へ]兵隊と娼婦稼業も身過ぎ故否 いな根源の欲殺戮と愛と
と]遠ざかる夢に彼岸を浮遊して目覚めは何時も汝が手の内
ち]地圖拡げ記號宇宙の一人旅返り見すればただの尻取り
り]リラダン作「昨日は今日の物語」殘酷なイヴの影さへ見えぬ
ぬ]濡れ場には紫の霧立ち昇り蒼醒めるから血の雨も降る
る]留守は承知受話器に呪咀を吐き散らしあはれ翌朝の自己嫌惡
を]女郎花萎えしろせんを慈 いつくしみゆるゆる解かむ護謨 ゴムの知惠の輪
わ]忘れ草思ひ出し草儚な草氣が狂ひ草亂れ草の香
か]カスマプゲ胸の痛みの夕間暮れ語尾の餘情よ波路遥かよ
よ]夜這星流れ者には情 じやが仇 あだ新鉢割のとんだ綴ぢ蓋
た]戯れは中途半端に為不勿 なすなかれ布團の中の道化師は誰
れ]黎明の衒 てらしに面向け得ざる己が言葉を信じねばこそ
そ]虚言 そらごとも憎き男の洒落ならば猪口 ちよこと盃 はいとで差しつ差されつ
つ]月々の月の續きの次々に啄木鳥 きつつき來つゝ盡きぬ槌の音
ね]熱帶魚哀しきまでの厚化粧水清くとも心閉ざすな
な]済し崩し情夫 いろと情婦 いろとに成り初めて別るゝ時ははいさやうなら
ら]子守唄 ララバイは子守娘の呻き聲思ひ出す度 たび魂軋む
む]夢遊病現 うつつに遊ぶ無憂病幸福者等 しあはせものらなべて無思想
う]美しく枯れし女の口癖に男の夢ぞ吾が假住居
ゐ]牛膝 ゐのこづち貴方まかせの旅の空財布拾ひし小倉三萩野
の]野良猫は昨日の戀の意趣返し猫語で唄ふ<私の太陽> オ・ソレ・ミャオ
お]咲きの薔薇の大輪摘み取りて衣嚢 ポケットに入れ断崖 きりぎしに赴
く]口惜しさも浮世未練の一部分見知らぬ故郷に今歸らばや
や]優しさの廉価特販 バ−ゲンセイルに飽き果てて化粧落とさば目の下の隈
ま]枕繪の亂れ模様も懐かしく片袖絞る時代男 ぢぢいの淡情 なさけ
け]欠點を星の數ほど振撒いてそれを男の香水と思ふ
ふ]不義不倫不忠不愉快不節操不逞不本意不惑の振子
こ]言葉など羽根と交換してしまへ知識発明諸惡の元肥 もとごえ
え]江戸の四季粋通乙の三拍子火事も喧嘩も他人 ひとに背負 しよわせて
て]手には手を口には口を重ね合ひ血で血を洗ふ贋 にせ偏執狂 パラノイア
あ]朝歸り琥珀 こはくに染まる雲間より吹き降し来る風の冷たさ
さ]百日紅 さるすべり菓子の記憶を呼び覚ます白薄紅の花瓣も有りき
き]霧煙る出湯 いでゆの里の後朝 きぬぎぬの餘韻は哀し悉 ことごとく須萸 しゆゆ
ゆ]湯上がりの君の毛穴の一々を我がものと欲す戀の逆夢
め]盲縞亂れの裾に縋 すがり付く心變はりのをなもみめなもみ
み]見初めしは何方 いづちとからは知らぬ儘 まま轉がり堕る社會 ゆめの階段 きざはし
し]死ぬ時はみんな一人と呟けば谺の如く闇からの聲
ゑ] ゑひどれて腦髄麻痺 しびれ痙攣し五臓の魔宴 サバト始まる氣配
ひ]晝顏 ひるがほの蕾に露の一雫 しづく缺食兒童の産毛 うぶげ悲しも
も]腿の奥桃の花咲く谷の村往來繁き肉月の逢瀬 あふせ
せ]節操の鎖帷子 くさりかたびら愛の鞭 むち假面の君を誰よりも愛す
す]水蜜桃婉然と鏡臺に座し下敷きにされた三行半 みくだりはん
京]京の雪大阪の靄逃 のがれ來て~戸に遊ぶ一人傀儡 くわいらい
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