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春一番、風炎 末期の日凡夫天才均ひとし並なみ魂渡して涅槃西風ねはんにし吹く
骨 櫻 鸚鵡あうむ鴬 法螺 帆立 寶たから浅利の貝寄の風
東風こち吹かば故郷くにの梅林偲ばるゝ
回帰禁忌の遠島ゑんたうの身に
櫻まじ倦うまじ悩まじ羨まじ呪まじなひすまじゆめ笑ふまじ
青嵐あをあらし緑の叢むらを震はして何訴ふる狂女の如く
夢心地薫を運ぶ風の船皐月さつきは睡眠ねむりの裡うちに生きたし
潮風も緑の風も吹くからに海辺の町を恋ひ恋ひて来し
風鎮かぜしづめ否魂の贄にへとして曝さらけ出す罪吹き飛ばさむと
稲穂よりなほ美しく屹たつ麦を妬む嵐の心諾うべなふ
結論はいつも持越もちこし黒白こくびやくの梅雨の後前あとさき向不見むかふみずの風
夏過ぎて秋の気配のあいの風二人の愛の終りを祝ふ
青東風あをごちよ嵐の後の優しさよ厳しきばかりの師にしあらぬを
心をば何に例えむやまじ風怒り即ち瞬時の恐怖
野分のわきてふ言葉も知らず我知らず心は逸はやる風好な児この
味気なき我身の秋の夕暮に色無き風の一入ひとしほ染みて
綯交なひまぜの芝居擬しばゐもどきに忙しく雑事をよそに吹く送南風おくりまぜ 鈎かぎかけて夜逃げの雁を追ふ如く吹く北風も淋しからずや
木を枯らし女を枯らす酷薄こくはくの風乞ふ我は冬野に立ちて
絹を裂く風の悲鳴に闇を聞く虎落笛もがりぶえより艶えんなるは無き
目に見えぬ真空斬りの悪戯いたづらに遇ふ僥倖げうかうの有るや有らずや
繁殖を風に託して野放図な花を愛めずして何を愛ずるや
六角形微小の花の舞踊り土に溜まるな肌に触るゝな
生と言ふ錯覚 ならば死は覚醒めざめ唯一希望は屍かばねの風化
人の世に凪なぎのあるこそ口惜くやしけれ 停止は落下の徽しるしなりせば
サンボ通信23号(1993.08/29)所収。 子どもの頃から風は好きでした。まさに「子どもは風の子」だったわけです。台風が近づくと心が躍りました。風を表わす日本語もなかなかに豊かです。それらを追い風に作ってみました。 タイトルは、「風雅」に「遁走曲(フーガ)」を掛けたものです。 ・風炎−フェーン現象
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