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歌集風雅帖La Fuga
 
サンボ通信23号 1993/08/29待つものと待たさるゝもの鬩せめぎ合ひ 春一番に風炎の熱
春一番、風炎

末期の日凡夫天才均ひとし並なみ魂渡して涅槃西風ねはんにし吹く
涅槃西風

骨 櫻 鸚鵡あうむ鴬 法螺 帆立 寶たから浅利の貝寄の風
貝寄風

東風こち吹かば故郷くにの梅林偲ばるゝ 回帰禁忌の遠島ゑんたうの身に
東風

櫻まじ倦まじ悩まじ羨まじ呪まじなひすまじゆめ笑ふまじ
櫻まじ

青嵐あをあらし緑の叢むらを震はして何訴ふる狂女の如く
青嵐

夢心地薫を運ぶ風の船皐月さつきは睡眠ねむりの裡うちに生きたし
薫風

潮風も緑の風も吹くからに海辺の町を恋ひ恋ひて来し
海風、陸風

風鎮かぜしづめ否魂の贄にへとして曝さらけ出す罪吹き飛ばさむと
風祭、風鎮

稲穂よりなほ美しく屹つ麦を妬む嵐の心諾うべな
麦嵐

結論はいつも持越もちこ黒白こくびやくの梅雨の後前あとさき向不見むかふみずの風
南風 はえ

夏過ぎて秋の気配のあいの風二人の愛の終りを祝ふ
土用あい

青東風あをごちよ嵐の後の優しさよ厳しきばかりの師にしあらぬを
青東風

心をば何に例えむやまじ風怒り即ち瞬時の恐怖
やまじ

野分のわきてふ言葉も知らず我知らず心は逸はやる風好な児
野分

味気なき我身の秋の夕暮に色無き風の一入ひとしほ染みて
色なき風

綯交なひまぜの芝居擬しばゐもどきに忙しく雑事をよそに吹く送南風おくりまぜ
送南風

かぎかけて夜逃げの雁を追ふ如く吹く北風も淋しからずや
雁渡し

木を枯らし女を枯らす酷薄こくはくの風乞ふ我は冬野に立ちて

絹を裂く風の悲鳴に闇を聞く虎落笛もがりぶえより艶えんなるは無き
虎落笛

目に見えぬ真空斬りの悪戯いたづらに遇ふ僥倖げうかうの有るや有らずや
鎌鼬

繁殖を風に託して野放図な花を愛ずして何を愛ずるや
風媒花

六角形微小の花の舞踊り土に溜まるな肌に触るゝな
風花

生と言ふ錯覚 ならば死は覚醒めざめ唯一希望は屍かばねの風化
風葬

人の世に凪なぎのあるこそ口惜くやしけれ 停止は落下の徽しるしなりせば
人の世に凪なぎのあるこそ嬉しけれ 活計たつきの航海たびの執行猶予オーバーホール



サンボ通信23号(1993.08/29)所収。
子どもの頃から風は好きでした。まさに「子どもは風の子」だったわけです。台風が近づくと心が躍りました。風を表わす日本語もなかなかに豊かです。それらを追い風に作ってみました。
タイトルは、「風雅」に「遁走曲(フーガ)」を掛けたものです。

・風炎−フェーン現象
・涅槃西風−涅槃会(陰暦2月15日)頃吹くそよ風
・貝寄ー大阪四天王寺の聖霊会(陰暦2月20日)頃吹く西風。貝を浜辺に吹き寄せる風の意。
・桜まじ−桜の季節に吹く南風
・やまじ−愛媛県川之江市一帯に吹く局地風。農作物に被害をもたらす。
・雁渡し−陰暦8月頃に吹く北風。青北風(あおきた)とも。
・虎落笛−冬の強い北風が柵や竹垣、電線などに吹き付けて発する笛のような音。

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