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濡れ懸かかり和蘭陀坂を駆け上る黒振袖の花魁の凶きよう 長崎鳳蝶 ながさきあげは 漆黒の地に金、緑、紫、黄、紅を散らさばブ−ドゥの秘儀
名にし負はば吾に持ち来よ西風の精 風信子はなの芳香かをりと流された血と これやこの破調はてうの歌の切れ切れに風に運ばれ行く先は何処 樹皮よりも樹皮の翅持ち樹皮に添ふ同化したかと神の問ふまで
南国の佛桑華ハイビスカスと朱を競ふ賢さかしらは余白に著しるく表れてあり
豊前の國英彦山の奥に棲む仙人の弟子と昵懇になりて
ても流石閨秀詩人の曾孫の名前に恥ぢぬその飛翔態ぶり 日常の雑事に埋もれ気が付ば繿褸繿褸ぼろぼろの翅寸々づたづたの心 年中多忙忙せはしげに市場を飛回る“庶民の寶石”people's gem
恐れ知らぬ汝生粋の岩滑りRock-Glider何よりも先ず目立つ擬態 玻璃珠も磨かねばこそ光り無く冬の時代にただ蹲うづくまる 禁色きんじきの禁忌を破り大小の天使となりて追はるる快楽けらく 偶然の美は必然の別の謂いひ留めることは罪深き業わざ
日陰者には日蔭の慶び有りぬべし背後うしろ向きに見開かれた眼 人生の節目節目に現はれて知らぬ振りして行き過ぎる汝
世が世なら大名どもを従へて左団扇うちはでゐられしものを ぼんじやりとふつくらとして優しうに振ぶつてゐるのも己が身の為 言魂の幸さきはふ國とつゆ知らで飛んで火に入る米兵army一人 夕顔の夕の化粧に惑はされ彼女の前に静止したまま
土耳古青のベルト明るく連なるを精神安定剤tranquilizerの代用となす
憎くして喰ひ荒すにはあらねども待つ身の辛さ双方に在り
黒白の水玉模様生娘の心の綾のモアレに非ずや
月冴えて津波忍び寄る過疎の漁村むら蒼白き寡婦の密かな愉悦 菜の花の黄海に降る牡丹雪母の項うなじに積もりては消けぬ
サンボ通信第五号(1987/12/10発行)所収。Morris.は小学4年から中学2年まで、自他ともに認める昆虫少年だった。期間限定だったのには色々わけがあるのだが、当時は授業中でも外に珍しい蝶など飛んでいると、常備していた捕虫網持って、飛び出していくことも珍しくなかった。理科の先生が、暗黙に許可してくれていたのだ。まあ、いい時代だったのかもしれない。現在は、植物人間といわれるほどに、興味はBotanicalに移行したが、それでも、その植物たちを訪れる、虫たちを見るのは楽しいものだ。就中蝶や蛾などの鱗翅目は、ネルヴァルの言うように「茎も無く飛ぶ花」にちがいない。世間には蝶は愛好しても、蛾を嫌悪する傾向があるようだが、Morris.はどちらも同じように好ましい。いや、蛾の方に親近感を覚えることが多いくらいだ。 タイトルはイ短調(A MOLL)から、カットのイラストはリチャード・ドイル(「IN FAIRYLAND」)から引用させてもらった。
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