茄子紺という言葉は、大相撲のまわしの色の形容として、今でも使われることが多いので、耳に馴染んではいるのだが、実際の茄子は、その色といい、形といい、奥深く底光りしているさまからしても、どうも一筋縄では行かない「悪い奴」を連想してしまう。

それも、陰湿な犯罪者や、凶暴な一匹狼ではなく、結構茶目っ気のある好々爺タイプの、黒幕とでもいったところだろうか。


茄子科には、茄子を始めとして有用植物が多い。

トマト、ピーマン、唐辛子、煙草あたりまではわかるが、なんとジャガイモまでが茄子科だと知ったときは、ちょっと意外に思ったが、花を見て納得がいった。

話が逸れるが植物分類上「芋科」という科は存在しない。

イモは、主に食用とする地下茎の肥大した部分の総称で、いわゆる学術用語ではなく、たとえば、サツマイモは昼顔科、サトイモはサトイモ科、山芋はヤマノイモ科とそれぞれ異なる科に属している。


さて悪茄子である。

あまり知名度は高くない雑草だが、この名を辞書で目にして以来、気になってしょうがなかった。

先に書いた、茄子にまつわる悪党のイメージ、その上に「ワル」を冠するからには、よほどの奴に違いないと思ってしまったわけだ。

現物にお目にかかったのは、ずいぶん後になってからだったが、犬鬼灯に似て、葉や、茎に棘があり、確かに嫌われ者らしいたたずまいをしていた。

しかし、これだけでは、名前負けのようでもある。

命名者は、茄子の仲間で、何の役にも立たない雑草の上、棘まであるからと、単純に茄子に「悪」を付加したのだろう。

名前ばかりにこだわる方が、おかしいのかもしれないが、一唯名論者Morris.としては、なんだか歯痒い植物ではある。

植物の賎名としては

屁糞蔓(ヘクソカズラ)

継子尻拭(ママコノシリヌグイ)

豚草(ブタクサ)

掃溜菊(ハキダメギク)

野襤褸菊(ノボロギク)

庭埃(ニワボコリ)

狗陰嚢(イヌノフグリ)

捨子蒜(ステゴビル)

盗人萩(ヌスビトハギ)

蛇苺(ヘビイチゴ)

蝮草(マムシグサ)

鬼薊(オニアザミ)

などが思い起こされるが、いずれも名前に反して可憐な植物ばかりだ。

悪茄子によく似た犬鬼灯にはバカナスビ、同じ茄子科の朝鮮朝顔には、キチガイナスビの別名があるそうだ。

よくもまあ、これだけ悪口雑言を並べられたものだ、と、かえって感心してしまった。

とが 無くて死す覚悟有あり悪茄子

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