すいせん
すいせん 「銀のお盆に金の盃」

と、いう謎々を思い付いた。

答えはもちろん、水仙の花である。

冷たく白い花弁と中央の黄色い花冠をそう見立てたわけだが、実は「金盞銀臺」はれきとした、この花の雅名だ。

水仙という名からしてそうだが、人をゆかしい気持ちにさせるところがあるらしく、「雅客」という直截な別名もある。

これらはいわゆる日本水仙を対象にしているのだが、水仙には花全部が黄金色で花冠も豪華な喇叭水仙(Trumpet Daffodil)があって、こちらはいかにもファンファーレでも聞こえそうな派手さがある。

そのほか紅色の花冠を女性の唇に喩えた口紅水仙、大盃、小盃、八重咲、香りが高い黄水仙(jonquilla)など各種あるが、結局シンプルな房咲きの日本水仙が一番好ましい。 
 

水仙といえば、ギリシア神話のナルキッソス伝説が有名で、これは口紅水仙を素材としている。

ナルシシズムの系譜は人間が存在し続ける限り、廃れることはなさそうだが、一説によると、水仙の球根に麻酔の効果があることから「昏睡」「無感覚」「麻痺」を意味するギリシア語ナルケ(narse)がその語源だとか。

いずれにしても、古代ギリシア人たちの想像力には舌を巻かざるを得ない。

物語はすべて書かれてしまった、と思えるほど、彼らの作品(神話、英雄伝説、悲喜劇)には、人間の根源的な原型が充填されている。 
 

水仙には空気を浄化する作用があるようだ。正直言ってあまり部屋に飾る気はしない。

自分の穢れを無言で糾弾されているように思えるから。

好きな花でありながら、やはり同じような理由で部屋に飾るのをためらうものに彼岸花(曼珠沙華)がある。水仙も同じヒガンバナ科だ。

この仲間には特有の孤高なたたずまいがあり、「死」を連想させる。日本には7-8世紀に大陸から渡来したらしいが、萬葉集や八代集にはほとんど登場しない。

やまと言葉を旨とする和歌の世界に漢語そのままの名が災いしたのか、響きがそぐわなかったのか、それに比すると、俳諧には冬の季語として割に多く現れる。
 
 

●水仙花化粧 けはひの涯の蝋の肌 

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