キンポウゲ科には心惹かれる。美しい上に毒がある。 この科の植物はすべてプロトアネモニンを含むし、鳥兜のように猛毒のアルカロイドをもつものまである。 翻って言えばそれだけ薬用として重視されてきたということにもなろう。 そのせいか名前もなかなかに凝っていて「馬の脚形」「狐の牡丹」「蛙(ヒキ)の傘」「烏頭(ウズ)」などの動物名、単順に名づけられながら味わい深い「一輪草」「二輪草」、さらには「苧環(オダマキ)」「風車」そして「翁草」もこの仲間である。
「翁草」は、痩果が多数集まって白い羽毛状になる様を老人の白髪に見立てての命名らしいが、赤紫で釣鐘形の花(正確には萼片)と葉、茎も白い毛に包まれていて、初めから「老」を感じさせる。 漢方ではこの根を「白頭翁」と呼び、赤痢や眼病、婦人病などに用いる。 韓国ではなぜかこの花を「ハルミコッ(おばあちゃん草)」と呼ぶ。 まあ、爺婆は似たようなものだといってしまえばそれまでだが、そのことで想起されることがある。 数年前李清俊の小説「祝祭」が映画化された。老母の死を主題にした作品だが、映画の中で、「おばあちゃん草は春を数えるかくれんぼ」というタイトルの童話が効果的に挿入されていた。 李清俊とは一度会ったことがある。 AGORAのKen Mizunoさんが、「西便制」の原書講読の許可を得るためにソウルの食堂で会食しているところに偶然混ぜてもらったわけだが、ちょうどそのとき、発行されたばかりの件の童話が話題になっていた。 著者からの献呈本にサインまでもらった Mizunoさんが、しきりに褒めていたのが印象深かった。 もし韓国でもこの花が「翁草」と呼ばれていたら、この童話は書かれなかったろうし、映画もずいぶん違ったものになっただろう。 唯名論者のMorris.には、こんなことが頗る面白く感じられる。 ●高砂や共に白髪の翁草 |