「えにしだ」は和名だと思っていた。
響きが何となく日本語的だし、宛字とは言い条「金雀児」「金雀花」という漢字名まであってそれにずっと親しんできたのだからしかたがない。
事典によると、この花は欧州原産で、日本には江戸時代に渡来したらしく、羅典語Genistaのオランダ語訛り「ヘニスタ」から「エニスタ」と変わり、さらにエニシダに変化したと言う。 英名も羅典語そのままを踏襲しているが、もう一つBroomという別名を持つ。あの穂状の花を箒に見立てての別名だろうが、学名種小名scopariusにも箒の意味が含まれている。 この枝を実際に箒として用いた例もあるらしい。
豆科だから花を一つ一つ見るとお馴染みの蝶形花で、めっきり少なくなった山黄蝶の大群を思い起こさせてくれる。 かなり野生化もすすんでいて、山間地、郊外、高速道路の道沿いなどで、あの黄色の花が目に飛び込んでくる。えにしだの花弁の黄と、鞭のような常緑の茎と葉の対比は目を射るように強烈でそのくせ、静謐さを保っている。 山吹、黄梅、連翹、黄素馨など類似した色形の花は多いが、そのどれとも見紛いようのない「いろ」を持っているのは、ひとりえにしだに限らぬとは言え、造化の神の手練に降参するしかない。
「みのひとつだになき」山吹とは違って、えにしだは立派な莢状の豆の実を結ぶ。立派と書いたが、現物は全長5cmたらずのうえ薄っぺらで、人類の食用としてはもちろん、鳥だってさして好みそうにない類のものだ。 しかし、この貧弱な豆が夏の陽光に照らされて、ぬばたまの漆黒に変身するときその美しさは独特の高みに達する。 そのように僕には思えるので、立派と形容したのだ。 この黒く小さく美しく気高く潔いえにしだの莢を見るたび僕はbluesに思いを馳せる。黒−黒人−bluesと言う短絡思考と思われそうだし否定もしないが、それだけではない。
唐突だが、この五月に春待ちファミリーBANDの熱心なファンだった西田ますみ嬢が結婚した。 背が高くて細身で、色も白い彼女の表情の中に、僕はなぜか黒人的なテイストを感じて、そこがとても気に入ってたのだ。 えにしだの花の中に封印された姓をこの花の咲く五月に放擲するというのも何かの縁(えにし)だ(^_^)、というわけで、この稿は彼女に捧げることにしよう。
Good luck!!
えにしだの花詞は「謙遜」また「清楚」。 ●金雀兒えにしだの花冠新妻にいづま澄み極む |