愉快なる人生
愉快なる人生
大正十年(1921)5月13日洛陽堂発行。サア・ジョン・ラボック著、小川隆四郎抄訳。B6版、緑色ハ−ドカパ−天緑、函入り、201p.定価壱圓八十銭。3,4年前、大阪日本橋の宮本書店で800円で購入。著者、訳者、書名ともまったく知らなかつたが、題名とそのレタリングに惹かれて手に取つた。

中表紙に「PLEASURE of LIFE」とあるからこれが原題らしい。全体は2篇23章に分かたれている。「幸福の義務」「義務の幸福」「時の価値」「家庭の快楽」「富」「愛」「健康」「労働と休息」「人生の患難」「進歩の希望」・・・等という各章のタイトルを見れば、これが人生啓蒙の書らしい事は察しが付くし、書名からして、楽観主義的傾向の本らしいと言うことも伺える。そしてその想像は聞違つていなかったのだが、一読して感心したこと(あるいはあきれたこと)は「何という、引用の氾濫であることよ!!」であつた。

僕も引用に関しては、人後に落ちぬと自負しているのだが、ラボック氏の足元にも及ばない。殆ど全頁に二重釣括孤付きの引用文が散りぱめられていて、ラポツク氏自身の意見を見つけるこどは難しいくらいだ。もっともこれは「抄訳」となっているから、訳者小川氏が、引用の部分を取り立てて選んで訳したとも考えられるが、それにしても異常なくらいの引用ぶりである。試みに、冒頭から順に被引用者をピツクアップしてみよう.

ヱピクテタス、セネカ、シャレ−、オマル・カイアン、ヱドウヰン・アーノルド、ホ−マ−、ゲ−テ、ハルパ−ト、ダンテ、ラスキン、サー・ヘンレー・タイラー、サー・T・プラオン、パーナールド、マーカス・オレリアス、ヘゲル、マツシュ・アーノド、プルターク、ヘルプス、ぺ一コン、ルーソー、フィリカジヤ、ヘルモルツ、カステラ、ラ・ブルイヤル、シヱキスピーア、ヱピキュラス、ハールン、ミケ□・アンジエロ、アイザツク・ワルトン、ラスキン、ヂレミ・タイラー、ルーテル、グレグ氏、シニアス、サー・A・ヘルプス、プラトー、ソ□モン、アリストートル、ニューマン、クリーンセス、ヱソツプ、エマソン、アルフレッド王、ソクラテス、ゼノホン、リチャード・ヅ・ピュリー、ぺトラーチ、アイザック・パアロー、サウシー、アイキン、ジレミー・コーリアル、サー・トレベリアン、フラー、マコーレ、フィールディング、ボスウエル、ダーピー卿、クック、ダーウイン、ハンポルト、プロクター、ウリセス、ラム、サー・ジョン・ハーシェル、ピサゴラス、ナスミス氏、パスカル、アナザゴラス、シルレル、ワラー、チエスターフィールド候、ヒラード、ミルトン、M・モー□ツト、スキート、チンダル、レー・ハント、マツケンヂー、グレー、サウシー、ウツドオース、クーパ^、ケーベル、カウレー、マツケー、テニソン、ファーラー、モンガモリー、ミル、セオグニス、プレニー、モリス、オリパー・ホルム、ナポレオン、ポーウルフ、モントロース、レオナイダス、レギユラス、□一レ、スペンサー、キングスレー、シモナイド、ロングフエ□ー、エンベクトル、ヘリック、フランシス、イレカヂヤ、スコット、ドライデン、ヨプ、ハマールトン、コツベ嬢、ジツファリース、トーマス・アッケンピス、オツシアン、ラフレス、タイオヂネス、マラッテ、シモンド、ミカ、ゼームスー世、ポーロ、コレリツヂ、聖ヨハネ、聖ポール、チョーサー、パーク、ニユートン、アルキメデス、ガルトン氏、マコーレー、スウインパン、マヌ

以上130余名(ああ疲れてしまった、つまらぬことを考えるんじゃなかつた)この他に無記名引用文や、インドやアラビアの古代の言い伝え、格言などがあり、上記の被引用者の中には重複するものが多数あるのだから、この本の引用がどんなものか、分かつて貰えるだろう。無論、ぽくはこの本をけなしているわけではない。引用と言う作業が、結構体カを使うことを知っているから、きっと、ラポック氏もこの書を著すには相当消耗したことだろうと思う。ぞれに実際、この本に収められている引用文の大部分が僕の好みに合つているのだから、世間に多数流布している「名言名句事典」の類より、僕にとって充実したものであることは間違いない。

本書には解説めいたものはなく、冒頭に一際大きな活字で、訳者小川氏による3頁ほどの序文が附されている。

「浮き世は憂き世にして、人生は悲しきものなりとは、浅簿なる人生觀である」で始まリ「今や我邦人の其悲むべき國状と、嵩じ来る生活難の為めに人生其物を悲親するの姿あり。是れ謬見の甚しきもの。國の悲境は國民{譬ヘー部階級の行為りとするも其責は國民全體が負ふべきもの)に誤れる所があるからである。若し國民にして之を覚つて誤る所を改め。而して人類或は社會の眞法則に随つて努む所あらんには、天は必ず吾人を善さ境地に導くのである。要は生を樂んで人の務めに努カするにこある。」と結ばれてある噫、大正時代だ.

ラボック氏については、手持ちの事典類には見あたらなかったので、図書館の百科事典で調べてみた。

・John Lubbock(1834〜1913)英の銀行家、人類学、考古学者。幼にしてダイウィンを知り(1842)その進化論の感化を受け、ライエルの影響で地質学、生物学に関心を持つ。洪積世人類の進化研究。「先史時代」(1865)「文明の起源と人類の原始状態」(1870)などを著わす。父の銀行業を継承し、1870年からは、自由党代議士として、政・実業界で活躍。学会では王立人類研究所所長、ロンドン大学副総長、大英博物館館長を歴任。1900年にエーブベリー男爵となる。人生、道徳論の著作として「人生の悦樂」(1887)がある。ラボック氏

うーむ、なかなか間口の広い人物だったようだ。「人生の悦樂」が、本書「愉快なる人生」の原本と思われる。ということは、ラ氏が50歳を少し超えた時期の作物ということになるな。

ところで、本書の扉にラボック氏の肖像写真が掲げられているのだが、それを見た限りでは、髭もじゃのラ氏は「愉快なる人生」を送っているとは、思えない風貌なのだが−−−

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