SING AND SMILE AND PRAY
発行年月日不明(たぶん昭和20年代)、神戸女学院発行(たぶん)、定価不明。90×170o、56頁。数年前「つの笛」階段の百円均一コーナーで入手。これも、本と言うより冊子、パンフレットに近い。文庫本を縦長にしたサイズで、表紙の緑地に濃紺のシルエットに惹かれて手に取った。いわゆる歌本で、約100曲の歌詞と一部の楽譜が掲載されている。本文も濃紺のインクで印刷されていて、所々に可愛いシルエットを配してあるのが、いたく僕の興にかなったわけだ。楽譜は手描きでとても見事な手跡だ。
「歌って笑って祈る」という題目の通り讃美歌やゲームソング民謡などが適当に混在しているが、最後に「神戸女学院々歌」が載っているので、この学院の発行だと推測したのだが、一番の歌詞が楽譜のカタカナ表記で「チヌノウミノモニテルツキカゲノ‥‥‥」とあった。「チヌノウミ」と言うのは何だろうと思い、辞書で調べたら
「茅渟の海ーー和泉・淡路の両国の間の海の古名、現在の大阪湾の一部」
だそうな。うーん、ずいぶんむずかしい言葉を使うもんだ。
ところで、この原稿を書こうと、見直したら、一番最初にちゃんと「This booklet is distributed to Students of Kobe College」と書いてあった。英文なのですっ飛ばしていたのだ。ちゃんとこの本の説明もあったので一部を引用しておく。
Let's sing and smile and pray,
then we'll make the world peaceful.
the campus clear.
Let the emblem of Kobe College three leaves of clover,
symbolize our ideals---神戸女学院の校章は三葉のクローバーなのだろうか。この本の裏表紙には、達者な筆記体でY.Kotaniと署名がある。きっと神戸女学院の女学生だった小谷さんの所有していた本で、彼女も今頃は結婚して名字も変わり中年のご婦人になってるのではなかろうかと想像される。
僕はクリスチャンではないので、讃美歌はほとんど知らないから、掲載曲で知ってるのは「静かな湖畔の」「クイカイマニマニ」「権兵衛さんの赤ちゃん」などのキャンプソングと「赤い河の谷間」などのアメリカのフォークソングくらいだったが、中にはちょっと不思議な歌詞も見られる。
例えば「開拓」と言う歌。一番は
イワヲブッチワリブッチワリブッチワリ
ミチヲブッピラケブッピラケヤ
ブッチワリブッピラキブッチワリブッピラキ
ワレラノチカラヲシメセヤで四番になると
西瓜をぶっちわりぶっちわりぶっちわり
砂糖をぶっかけてぶっかけてや
ぶっちわりぶっかけてぶっちわりぶっかけて
我等のはらをこやせやとなる。
また「我はふくろ」という歌。
我わふくろよ楽しきふくろ
つとめ果しこころさやか
今宵うれし星あかりに
我がふるすへ帰らなん
湖のほとり北小松の森陰にこれは讃美歌か何かの翻訳なのだろうが「ふくろ」ってのは一体何のことだろう。
その他「おなかがへった」とか「御飯の歌」、「日々の糧を」など食欲に関する歌が多いのが特徴で、このことから僕はこの本の発行時期を戦後間も無い昭和20年代だとにらんだのだが、中でも白眉は「親子丼」という歌。楽譜がないのでどんな曲かわからないのが残念だが、歌詞が余りにも何なので全文引いておしまいにする。
【親子丼】一、親子丼オ寿司ニ弁当
サンドウイッチラムネニ
サイダー牛乳二、ミルクキャラメルオ煎餅
アンパンチョコレート
カステラヨーカン牛皮三、林檎蜜柑桃柿バナナ
パイナップル
梨栗苺水瓜四、コーヒコゝア
オ汁粉蜜豆ユデ小豆
甘酒ミルク紅茶
*これを書いた後で、「我はふくろ」の一件は「梟」ではないかと思い当った。