家庭園藝寶典
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昭和9年(1934)4月1日発行。 

主婦之友社(『主婦之友』四月号附録) 

堀江つとむ著、A5版変形横長、400頁。 

定価本誌とも六十銭。 

元町「つのぶえ」で2百円くらいで掘り出した。 

附録目当てに雑誌を買うということは、今でもあるが、本書はちょっと見には、とても附録とは思えない豪華さで、内容も充実しており、128頁にもわたる、総天然色の花卉疏菜図譜(450種)だけでも見ごたえがある。 

、家庭園芸年中行事の項は、カレル・チャペックの名著「園芸家十二ヶ月」(小松太郎訳、中公文庫--この本もお勧め)の日本版と言いたくなるくらいの力作、そのほか園芸のあらゆる方面にわたる記事と、当時の流行草花12種別の栽培方法などが満載され、とにかく半端じゃない一冊である。 
 

著者は大日本園芸補導会会長の肩書きを持ち、疑問の点は東京市渋谷区代々木冨ケ谷にある同補導会まで郵送してもらえば回答を返送するとまで書いてあるくらい、熱心なのである。 

内容については、目次から想像してもらいたい。 

 
 

嬉しかったのは、中央図書館で、朝日新聞縮刷版中にこれの広告を見つけたことだ。 

本誌のことには、かけらも触れてなくで、附録で売れるという、自信のほどをうかがうことができる。 



 

花の命は短いというのが通り相場だが、日本人の花の好みも半世紀以上の間にずいぶん変わったようだ。 

カラー版の口絵「流行の草花三百種」の中には、もうほとんど見かけなくなったものや、名前さえ知らないものが多数含まれている。 

これは僕の無知のせいもあるだろうが、ランダムに挙げてみる。 
 

・アゲラタム ・ネメシア ・ゴデチア ・レセダ
・カーディナルクライマー ・リナリヤ・クラーキア ・コリウスロベリア ・コキア
・トレニヤ ・ブラッキカム ・シノグロッサム ・オープリエチヤ
・リンム ・コングルヴルス ・ラークスバー ・ニゲラ
・セントランサス ・カカリヤ ・シザンサス ・ビスカリア
・センタウレア ・サボナリヤ ・スヰートサルタン ・プロディア
・イキシア ・カマツシア ・オルニソガラム ・バビアナ
・トリテリア ・スバラキシス ・チウベローズ ・ムスカリ
・アルストロメリア ・モントブレチア ・クリナム ・ゼフィランサス
・フリティラリア-イムベリアス ・ステルンベルギア ・スプレケリア ・サキシフラガ
・メラストマ ・ブーヴァルヂア ・テコマ ・ルドベキア
・コリゼマ ・アクイレヂア ・アンチューサ ・コレオプシス
・ヂューム ・デルフィニウス ・ガイラルヂヤ ・マトリカリア
・ペンテステモン ・アスチルベ ・フィソステジヤ ・ビレスラム
 

カタカナの羅列で、打ちながら何が何やら判らなくなりそうになった。 

誤植もありそうだが、確かめる元気はない。当時流行の花の約五分の一は、一般には見かけなくなったことは間違いないだろう。 


実は僕はこの本を全部読んだわけではない、いや、ほとんど読んでないというのが正しい。 

挿し絵や面白そうなところだけを拾い読みした程度だ。 

僕自身、実際に園芸をやる気はないし、興味があるのは花や草木を鑑賞することと、その名称なのだから、肥料や剪定の技術などはどうでも良いことになってしまう。 

ただ、「薔薇の作り方」だけは読み通してしまった。 

サンボ通信第9号の歌集『薔薇祭』の参考のためでもあったが(結局歌の参考にはならなかった)、薔薇の変種の和名の豪華絢爛には魂消てしまった。 

さきほどのカタカナ尽くしの口直しに、花の色別にその源氏名を写しておく。 
 

園芸薔薇の和名
【白色系統】 白鳳・末廣・天晴・不二・白閣・光月・雪冠・玉の冠・春の光・雪曙・白砂・雪嵐・浦島・柳の雪・松の雪・玉兎・白雀
【赤、紅色系統】 千早・緋龍・花祭・玉章・雷光・司牡丹・桜雲・竹生島・光輝・蔓紅蘭・蔓通天・国華・蔓曙・猩々の舞・玉琴・江戸の花・飛雲・汐衣・初笑・新小町・小野春・唐美人・花美人・火焔光・源氏車・初花
【桃色系統】 文鳴・龜齢・女蝶・金剛石・典麗・洛陽・明星・天女・文晁・蔓小桜・吉野山・陽光・蔓鳴海・蔓仙楽・初日・誉・乙女・雲雀山・花吹雪・花車・葛城・式部・日本桜・京鹿子・桜獅子・花田梁・京娘
【クリーム、黄系統】 金華山・金鷲・大公爵・金鵄・鳳冠・黄香・黄鶴・玉の垣・大山吹・真珠・峰の月・霞ケ浦の月・玉孔雀・舞孔雀・蜀錦・千代鶴・横笛
【橙杏、複色系統】 王冠・霞の峰・将軍・王蝶・織姫・鶴春芳・巫山・日光・金輪・月の光・翁遊・唐衣・玉川・紅葉山
薔薇は、一般に西洋のものと思いがちだが、現在鑑賞用として栽培されているものの大部分は十九世紀にフランスでチャイナローズと西洋種を交配して作り出されたものらしい。 

西洋種そのものも十字軍などによって、西アジアからもたらされたらしいから、薔薇は、東西文化混交の最上級の作品なのかもしれない。 

本の紹介がいつのまにか薔薇ほがいになってしまった。 


今も昔も「附録」とか「おまけ」には、それ本来の価値以上の不思議な魅力を有している。 

この「園芸宝典」も、普通の単行本なら、これほどに固執しないのかもしれない。日常生活でも、この「おまけ」のような部分こそ、僕を一番喜ばせてくれているのではないだろうか? 

そもそも僕の生活それ自体が、すべておまけのようなもののように思わずにいられない。 


 
 
 
 
 
 
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