アラビヤンンナイト物語
世界一の大奇書
アラビヤンナイト物語

大正8年9月5日縮刷発行、岡村書店刊、井上勤譯。新書判、青クロス装、614頁、箱入り、定價壱円四拾錢。


これも春日野道の勉強堂の百円均一コーナーで掘り出した。数年前後藤書展で見かけて、賣り値を見たら2千円となっていたから、まあかなりの、お買い得だったといえる。もっとも僕のは乱丁で4頁ほど破れがある(散逸はない)。乱丁とは別に356頁と357頁の間に4頁あって、その間のノンブルは356ノ2〜356ノ5と打ってある。今までいろんな本を読んできたが、こんなのは初めて見た。

もちろんこの本を愛蔵するのはそういった理由からではない。箱の絵や造りがよい(上下に三個ずつ鉄鋲が打ってある)とか、奥付の木版風のイラストがしゃれているとか、コロタイプ紛いの写真版の挿絵が精巧だとかいったことも、僕がこの本を手放せない理由でないとは言い切れないが、何と言っても、井上勤の譯文の見事さに参ってしまった。
井上勤は明治時代の翻訳家の草分け的存在で、ゲーテの「狐の裁判」などは名譯の譽れ高く、数年前にも復刻版が出たほどだ。


僕の持ってるのは、縮刷版だから、多分正本は明治に出されたのでないかと想像する。文体は漢文調で、当時の常として総ルビ活字というのも嬉しい。最近でこそ完譯の「アラビアンナイト」も珍しくないが、当時としては、画期的な作物だったに違いない。と、いうのも、たかだか六百頁ではあるが、引き締まった漢文体により、現代語訳の数倍の内容を盛り込むこことが可能な上、手際の良い譯者の筆捌きで、著名な挿話はあらかた網羅されているからだ。


僕はこれを二回読んだが、一回目は、まるまる一週間もかかってしまった。自分では速読を自負していたのだが、漢語の知識不足を思い知らされる結果になったし、読書の楽しさにたっぷりと浸ることもできた。そういう意味でもこの本には感謝すること大である。

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